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伝統文化の支援事業

伝統文化の支援事業
伝統文化の支援事業
文化と経済の両立を目指す

株式会社NO NAME

学校卒業後、学生時代にアルバイトとして勤務した編集プロダクションに就職し、2000年には商業施設をプロデュースする会社を立ち上げた安間信裕氏。自らの会社はなかなか軌道に乗らず廃業を余儀なくされたものの、その後に務めた携帯基地局事業を行う会社で頭角を現し、10年には同社の代表取締役に就任した。こうして順調にキャリアを積み上げていった安間氏の人生を大きく変えたのが、11年に日本を襲った東日本大震災だった。
豊かな自然と伝統を 次の世代に継承したい
「私自身の拠点は名古屋でしたが、クライアントからの依頼を受け、社員や協力会社から30名ほどを集めて、震災の翌日には被害の大きかった宮城県気仙沼市に入りました」
伝統文化の支援事業

株式会社NO NAMEの青を基調とした会社外観。

当時をそう振り返る安間氏が現地で目にしたのは、人々の営みを一瞬で奪った自然の脅威と、海外のメディアなどからも称賛された、被災地の人々が見せる“日本人らしさ”だった。
「当時、復興のお手伝いを通じて原発の問題で苦しむ多くの人の姿を目の当たりにし、人間の手に負えないようなエネルギーを使うことに疑問を感じ、再生可能エネルギーの普及に本気で取り組むべきだと考えました。同時に、自分たちがどれだけ大変な状況でも、思いやりや譲り合いの精神を忘れない被災地の人々の姿に感銘を受けました。そうした人々の姿を見て、日本の豊かな自然が育んできた大切な伝統や精神を、私たちが守り続けていかなければならないと強く思ったのです」

被災地から戻るやいなや、安間氏は再生可能エネルギー事業への進出を会社に提案。しかし他の役員たちの承認を得ることができなかったため、一念発起して退社し、ゼロからNO NAMEを立ち上げた。
社名に込めたのは、「自分は何者でもない」という思い。そこには、周囲の人々や自然に生かされていることを忘れてはいけないという、自分自身への戒めも込められている。
2018年に創業した同社は、太陽光発電所の建設工事やメンテナンス事業を中心に、土木や電気、水道設備や通信設備の工事などを幅広く手掛け、地域のインフラを担う企業として順調に成長。被災地で抱いた思いから、安間氏は事業で得た収益の一部を使い、「地域社会貢献活動」として、古き良き日本の伝統や文化を後世に残す活動もスタートさせた。
とりわけ現在、積極的に取り組んでいるのが、三重県松阪市を代表するブランド和牛である「特産松阪牛」を専門に育てる肥育農家の支援だ。

「実は、全国に出回っている松阪牛の中で、特産松阪牛の年間出荷量はわずか3、4パーセントにしかすぎません。しかも、兵庫県但馬産の雌の子牛を買い付け、900日もの期間をかけて育てる特産松阪牛は、全国のブランド牛に比べて肥育期間が長く、餌代などのコストや病気のリスクもあり、年々生産者が減少傾向にあるのです」
そう話す安間氏は、日本の伝統を守る活動を続ける中で、祖父の代から特産松阪牛のみを伝統的な手法で肥育する生産者の森本武治氏と出会い、消えつつある日本の大切な食文化への危機感から支援を決めた。

本業の傍ら自ら先頭に立って現地に赴き、社員たちや地域の人々とともに牛舎を設営。今後は、地元の農業大学などとも連携し、業界では名人として知られる森本氏が育んできたノウハウを、若き生産者たちに伝える仕組みづくりを行っていく。同時に、特産松阪牛の本来の価値を内外に知らしめる活動や、商品の価値を認めてくれた消費者と生産者を直接つなぐ、新たな市場の創出などにも注力していくという。
事業で得た利益の一部を 未来のために還元する
「今この瞬間にも、日本の伝統産業の担い手の方たちが各地で廃業しており、その数だけ大切な日本の文化が消滅しています。そうした状況に少しでも歯止めをかけるためには、微力ながら自分自身が動くしかありません。とはいえ、もちろん私ひとりの力だけでは大きなことはできませんし、共感して活動してくれる仲間が全国にひとりでも増えることが重要だと思っています」
伝統文化の支援事業

株式会社NO NAME代表取締役の安間氏と特産松阪牛の肥育農家。

特産松阪牛の他にも、日本固有の農作物の栽培や養蚕農家への支援、国産精麻で製作した注連縄の寺社への奉納活動など、自らの事業で得た利益の一部を伝統文化の維持・継承へと循環させる活動に力を注ぐ。
「事業を発展させてお金を稼ぐだけでなく、稼いだお金を正しく使うことに意義がある。私自身も、そう考えるようになってから仕事にいっそう力が入るようになりましたし、最近は社員たちも私の活動を面白がってくれるようになり、会社により愛着を持ってくれるようになりました。若い人たちは日本の伝統に興味がないわけではなく、接点がないだけ。若い人たちが日本の伝統や文化に触れる接点を私たちが用意すれば、そうした活動の中からきっと、日本の素晴らしい伝統や文化を継承してくれる人たちが出てきてくれるだろうと確信しています」
今後は、日本で伝統的に栽培されてきた環境に優しい植物を活用し、「耕作放棄地問題の改善や、カーボンニュートラルにも取り組んでいきたい」と安間氏は話す。
規模の大小を問わず、あらゆる企業が利益の一部を社会全体へと還元させる流れの一翼を担いたい。欧米などではスタンダードになりつつある、循環型の社会貢献活動を日本で広く根付かせるために——。未来の地球や日本に暮らす人々に、豊かな自然や大切な日本の伝統文化を残すため、安間氏とNO NAMEの挑戦は続いていく。
#Episode伝統文化の支援事業
INTERVIEW
安間信裕
INTERVIEW
株式会社NO NAME 代表取締役 安間信裕
1978年生まれ、静岡県出身。98年、学生アルバイトとして編集プロダクションに入社。個人事業を経て、2000年商業施設のプロデュース会社を設立するも多額の負債を抱えて廃業。負債を抱え路頭に迷うなか、ある経営者に誘われて08年FKに入社、10年同会社の代表取締役に就任。東日本大震災時、復興支援を行うなかで「再生可能エネルギー事業」に興味を持つ。13年FKを譲渡。16年NO MARKを設立し、再生可能エネルギー事業に参入。18年NO NAMEを設立。本業の傍ら、日本の伝統文化を後世に残す活動にも注力中。
https://kk-noname.co.jp/

※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。


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