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おもいのフライパン

おもいのフライパン
おもいのフライパン
フライパンが紡ぐ物語

石川鋳造株式会社

肉をおいしく焼くことに特化した「おもいのフライパン」は、愛知県碧南市に拠点を置く鋳物業の老舗・石川鋳造が発売したオリジナルフライパンである。鋳物ならではの分厚い面で焼くことで、肉が飲食店で食べるような味になると評判を呼び、2017年の発売以来、料理好きから熱い支持を受けている。
社員のアイデアから始まった、鋳物による調理器具の開発
石川鋳造株式会社の代表取締役社長を務める石川鋼逸氏は、名前に鋼の文字が入る筋金入りの鋳物一家の四代目だ。1938年の創業以来、工作機械、水道管、重機、ロボット部品などを中心に鋳造製品を作ってきた鋳物の老舗が、なぜ調理器具を手掛けることになったのか。
おもいのフライパン

テフロン加工を施さずに、フライパンの鋳肌をなめらかに仕上げる、熟練の職人たち

「リーマンショックを経験したこともあり、景気に左右されないオリジナル製品を作りたいと思っていました。そこで、社内にプロジェクトチームを作ってアイデアを募ったところ、ほぼ全員から調理器具の開発という意見が出てきたのです」。鋳物の魅力は、熱伝導率の高さにある。炭素を多く含み、遠赤外線効果をもつ鋼の利点を活かす商品として、調理器具が候補に挙がったのも理にかなっている。しかし、そこからの道のりは険しく、プロジェクトはすんなりとは進まなかった。同業他社から調理器具が発売されており、同じ鋳物で調理器具を作っても、二番煎じになる、と石川氏はフライパンづくりを諦めかけたという。

そんな矢先、先行する同業の社長と会う機会を得た石川氏は、単刀直入に尋ねた。「御社の商品は輸入モノの類似品じゃないですか?」と。返ってきた答えは意外なものだった。「似ていることは分かっている、と。一方で、これは自分たちの特性である精密加工を駆使したメイドインジャパンの商品で、他社商品とは全く異なる。そう言い切ったのです。その言葉で迷いが吹っ飛びました」

ここから、自分たちが本当に世に届けたい商品とは何なのかを突き詰めていくことになるのだが、商品を絞り込む際、そのヒントになったのは、石川氏の少年時代の原体験だ。「肉を食べることが大好きなのですが、子どもの頃は母の焼く肉がおいしくなかった(笑)。飲食店で食べる肉に比べると水っぽい。当時はプロと素人の技術の差だと思っていましたが、実は調理器具に秘密があったのです」

石川氏が馴染みの鉄板焼き店の協力を得て調べたところ、その店の鉄板には相当な厚みがあった。うまさの秘訣はこれだと確信し、自社のフライパンは圧倒的な厚みを持たせることに決めた。しかし、そこでネックになるのが重さである。開発当時の主流は、厚さ1.5ミリ程度。重量1キロを切る薄型軽量のフライパンだった。
「商品は軽いに越したことはありません。一方で厚みが1.5ミリのフライパンで、肉をおいしく焼くことは難しい。家庭でもおいしい肉を食べたいという少年時代からの夢を実現するためにも、厚みは絶対に譲れなかった。そこで、肉をおいしく焼くことに特化したフライパンを作ろうと決心したのです」

焼き面を厚くすると、重量が増す。相反する課題を解決するため、試行錯誤が始まった。取っ手の形や角度によって、感じる重みは異なる。形状の研究を重ね、取っ手に穴をあけることで、遂に軽量化を実現した。苦心の末に完成した、新商品の名前は「おもいのフライパン」。軽量化したとはいえ、他社製品に比べれば重い。そのハンデを逆手にとったネーミングは、石川氏と社員の思いをずっしり込めたものだった。
熟練の鋳物職人が実現する、 安全安心なモノづくり
もう一つ、石川氏が商品開発において重視しているポイントがある。「安全と安心」だ。市場に出回っている大半のフライパンには塗装が施されており、焦げない、くっつかないことをメリットとして強調している。
おもいのフライパン
「焦げ付き防止加工のフライパンだけでなく、鋳物でも表面にサビ止め加工をするのが主流です。しかし加工するということは、いずれ剥がれ落ちるということでもあります。それが安全、安心なフライパンだとは私には思えませんでした」。1500℃の鋳を流して作る鋳物は毎回同じものができないため、通常は表面の凹凸を塗装してなめらかにする。その塗装をせずに商品化すること自体が、大きなチャレンジだ。しかも今回の商品は調理器具で、食材に触れる表面はフライパンの真価が問われるポイントだ。
「当社には、鋳物の表面をなめらかに仕上げることができる職人がいます。仕上げの技術については取引先の評価も高く、当社の大きな強みでした」。その日の気温によって窯の温度を細かく調整し、鋳を流す角度、位置、注ぎ方を微妙に変えながら、塗装を施すことなく、安全、安心を実現することができた。その美しい表面は、焼きそばさえもこびりつかない、素晴らしい仕上がりである。
そして「肉がおいしく焼けるフライパン」は評判を呼び、一時は3年待ちという人気商品となった。ラインナップは5種類(20年7月時点)に増え、生産を1日200枚まで上げた。量産体制を整えた石川氏は、新たな物語を描き始めている。それが「おもいのプロジェクト」だ。20年6月からスタートするネット通販プロジェクトで、フライパンの縁でつながった精肉店や酒屋、工芸家たちと組んで、肉料理を楽しむための商品を取り揃えていく予定だ。

幼い頃から夢見ていたものを、今回の商品開発を通して実現した石川氏。これからも様々な人たちと繋がることで、その夢はさらに大きく膨らんでいくことだろう。
#Episodeおもいのフライパン
INTERVIEW
石川鋼逸さん
INTERVIEW
石川鋳造株式会社 代表取締役社長 石川鋼逸さん
愛知県出身。1938年創業の老舗鋳物屋である石川鋳造に2004年、社長就任。2008年よりフライパンプロジェクトをスタートし、2017年「おもいのフライパン」発売。現在は「おもいのフライパン」プロジェクトの先頭に立ち、YouTube動画「おもいのフライパン【公式】」チャンネルに出演し、お肉にまつわるさまざまな知識を配信中。チャンネルは毎週水曜夜更新。
https://omo-pan.net/

※ 本サイトに掲載している情報は取材時点のものです。


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