#Episode
マイクロミニフレックス
日本を代表するチューブを
大阪ラセン管工業株式会社
「戦前は、1枚の薄く細長い金属板を螺旋状に巻いていき、隙間にパッキンを入れることで気密性を持たせていました。だからラセン管と呼ばれていたのです」と語る、代表取締役社長の小泉星児氏。やがて薄板の溶接技術が向上すると、金属板を丸めて溶接して管にした後、細かく絞り加工を施して蛇腹状にすることで、伸縮性を持たせながらより気密性を確保できる製法が普及した。以来、フレキシブルチューブという名が一般的になっている。
住宅から電子加速器まで、 さまざまな分野で活用
近年では半導体製造装置や宇宙開発、電子や陽子加速器といったハイテク産業分野などへの納入実績も持つ同社の強みは、言うまでもなく高品質の製品を生み出す高い技術力。そんな同社を代表する製品が、内径3.3ミリのフレキシブルチューブ「スーパーミニフレックス」だ。
「2001年から発売している製品で、半導体製造装置メーカーからの要望を受けて開発しました。半導体の製造工程では真空下でガス供給を行う必要があるのですが、そのためのフレキシブルチューブとして、従来品より細いもので、且つ高い洗浄度が求められたのです」
半導体製造装置メーカーに納入されているスーパーミニフレックスは、口径が小さいことに加え、内面が研磨によって鏡面加工されている。肉眼では見えないレベルのチリも許されない精密部品で、できるだけクリーンなガスを供給できるようにするためだ。この内面研磨タイプの小口径フレキシブルチューブを製造できるのは大阪ラセン管工業だけ。スーパーコンピュータの心臓部であるCPU(中央演算処理装置)の冷却ユニットの配管部品にも使用されている。
スーパーミニフレックスは、気密性を有した金属製フレキシブルチューブとしては世界最小口径だったが、発売から約20年が経過し、他社からも世界最小口径をうたった類似品が販売されるようになった。そこで大阪ラセン管工業は、改めて技術力を広く世に示すべく、新製品の開発に取り組み、2019年8月に「マイクロミニフレックス」を発売した。その内径は1.6ミリ。スーパーミニフレックスのじつに半分だ。
技術力をアピールするための製品なので、売れなくてもよいと思っていた、と小泉氏は言う。
「絶対に他社が真似できないものを作りたかった。記録に挑戦するつもりで、可能な限り細いものを開発してくれと、技術部門に指示しました。用途としては、極細ケーブルの保護管や微細ガスの配管が考えられましたが、具体的に想定はしていませんでした。しかし、発売してから、さまざまな企業からオファーをいただいており、今後は医療機器分野などへもPRしていく予定です」
高度な技術から生まれる、 世界レベルのチューブ
「細くなるほど成形しづらくなり、一定のクオリティを保つことが難しくなります。構造や製法自体には特別なものはないのですが、作り方にコツがあります。企業秘密につき、詳しくはお話しできませんが(笑)」
2014年から販売している「ワームフリーフレックス」も同様に、大阪ラセン管工業の成型技術の高さを象徴する製品だ。通常のフレキシブルチューブよりも小刻みに、かつ深く絞り加工を施すことで樹脂ホース並みの柔軟性を備えたこのチューブを製品化できたのは、高度な技術力があればこそ。
金属製とは思えないほどの超柔軟性を持ちながら、金属ならではの高い耐久性を持つこの製品は、ISS(国際宇宙ステーション)に設置されている実験装置にも使用されている。
「長年培った技術を継承し、常に研鑽を積むことでさらに高めていきたい」と語る小泉氏。求められたわけではなく、それぞれ世界最小、世界最柔軟を自主的に追求した結果として生み出された2製品だが、その可能性は無限。どんな分野で活用され、そこからどんな新しいものが生まれるのか、期待は高まるばかりだ。
#Episodeマイクロミニフレックス
INTERVIEW
INTERVIEW
大阪ラセン管工業株式会社 代表取締役社長 小泉星児さん
1979年生まれ。兵庫県芦屋市出身。2001年大阪ラセン管工業に入社し同年取締役就任。14年超柔軟な金属チューブ“Worm Free Flex”の開発を主導する。17年、代表取締役社長に就任。19年自身の発案により世界最小口径1.6㎜の気密性のある金属チューブ“Micro Mini Flex”の開発を指示、商品化に成功。
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